“私とお散歩しませんか?パソコンのこと教えてください”
秋葉原で、よく女性に声を掛けられる。電気店を一緒にめぐるサービスだ。セーラー服姿が多い。話題の「JKお散歩」というサービスかもしれない。
だけど、実力で君のハートをつかめないなら、生きるのが辛い。もっと、生きる辛さを理解してほしかった。
丁重に断って、立ち去ろうとする僕に、彼女は言った。
“萌えビンタもできます”
破壊力のある言葉だった。高ぶる気持ちを抑えつつ、それがどういうものか尋ねてみた。
1回1,000円で彼女が僕をビンタしてくれるらしい。オプション料金でメイド服にも着替えてくれる。日本のおもてなしだ。
分かる。だけど、経営者たちが「世界を変える」と連呼しながら、しのぎを削っているときに、女性にビンタされて、僕だけ世界観を変えている場合ではない。
“お金なんか払わなくても、色々な女性によくビンタされてるからいいよ!”
後ろ髪を引かれる思いで立ち去り、秋葉原駅から JR に乗った。カッコつけ過ぎた。本当はビンタじゃなく、つねられる方が多い。
いずれにしても、いかに女性に声を掛けてもらえるか、再確認できただけでも良かった。
すがすがしい気分で、新宿駅に近づいてきたとき、吊り革につかまって立っていた僕の目の前の席に、2人の女子大生が座ってきて、友人について会話を始めた。
“◯◯ってさ、自分がカワイイって勘違いしてない?”
“秋葉原にいる男の人みたいだよね。自分を見ろって感じよね”
目の前の僕は、黙って iPhone の電源を切り、画面に写る自分を見た。
生きる辛さを理解した。