博士号

この秋の学生向け講演の依頼を頂いた。スライド用に、自分の学生時代の写真を探したら、これが出て来た。

ずっと、この写真を見てなかった。9年が過ぎて、初めてマジマジ見てみた。

これは、2003年、博士号を取得したときのものだ。僕は「9月」卒業だった。

博士号には、学会と論文発表が必要で、僕は、あっという間にこなして、3月より前に卒業するつもりでいた。

“誰よりも早く卒業してしまおう”

そんな、うぬぼれた僕を、世界は許してくれなかった。

あの日、僕は完成した博士論文を、大学事務所に持って行き、楽しみにしていた卒業式の日時と場所を確認してもらおうとしていた。

論文を受け取った女性は、僕の名前を確認して、険しい顔をして、僕にこう伝えた。

“残念ですが、3月の卒業式には出られません”

僕は驚いた。何が起きたか分からなかった。

“卒業式用のマントと帽子の採寸がこのタイミングでは難しいため、卒業式は次回になります。”

あと1週間早ければ間に合った、とも彼女は付け加えた。

僕は意味が分からなかった。マントと帽子の合うサイズがないという理由で卒業できないなんて、聞いた事なかった

”どんなサイズでもいいです。電話で何とかなるでしょう?”

しかし、ついに僕の名前が卒業者リストに載る事はなかった。

そして、「卒業式」ではなく、「次回の帽子とマントの採寸」の日程と場所を教えてもらって、その場を立ち去ることになった。

こうして僕は、マントと帽子が理由で卒業できない人となった。

数週間後、友たちが笑顔で卒業する姿を見送った。恥ずかしさで、僕の心は笑顔になれなかった。

そして9月になり、誰も卒業生に知り合いがいない中、卒業式を迎えた。帽子を1人で「イエーイ!」と言いながら投げた。

後輩に伝えたい。あれは、みんなで投げるから楽しい。

今となっては、すべて、いい思い出だ。

僕は、9年ぶりに自分の姿を見て、いい顔してるし、努力したから、いいかなと思い直すことができた。人間は成長する。

そして、先日、友人にも、この写真を見せてみた。

それを見てすぐに、彼は、とてもいいことに気がついた。

彼は、無邪気な笑顔で、こう言ってくれた。

“この帽子、サイズ合ってないねw”

。。。

後輩へ。論文提出など通過点です。
「マント」と「帽子」。これら本当のゴールを目指して、がんばってほしい。