器の選び方

日本橋高島屋、小石原焼の窯元、鬼丸翁明氏の作品展に訪れた。
そこで大切な「顧客目線」を学ぶことができた。

会場で、僕はある皿が気に入って「このお皿、いいですね」と鬼丸翁明氏にお伝えした。すると、氏はニコニコしながら「お薦めはこの4つです。」と全然違うものを指差された。

僕は少し不思議に思った。地味なそれら4つもいいけど、僕の選んだ皿は趣があった。

そのとき、女性客がやってきて「これいい」と、僕が選んだ皿を指差さした。僕は少しほっとして、自分は顧客目線で見れている!。。。と、この時点では全く大切なことに気がつかずにいた。

続いて、偶然、ある大手ラジオ会社の役員の方がその場にいらした。僕は、その場で紹介され、2人で話し込んでいたところ、彼が「この皿はいい!」と、先ほど、鬼丸翁明氏がいいと薦めた種類の皿を褒め称えた。

そのとき僕は「本物をたくさん見ていると、やっぱりこういう地味なのが良くなるのだろうか」と、まだそんなことを思っていた。

次の瞬間、自分の大きな間違いに気がつかされる。彼は続けた。

「この皿は素晴らしい!どんな料理を乗せても、その料理が引き立つように作られている。カレーでもいいし、パスタでもいい。料理を乗せた瞬間に最高になる。」

その言葉を聞いたとき、自分がとても恥ずかしくなった。

本当に、言われた通りだった。その皿にカレーやパスタが乗った姿を一瞬で想像できた。とても美味そうなカレーやパスタが、その皿の上に乗っていて、湯気が立ち、光っているイメージが浮かんだ。。。僕は敗北感にうちひしがれた。

料理が食べる人の目の前に運ばれて、テーブルに置かれる、その顧客にとって一番大切な場面で、皿がどうあるべきかというところまで、きちんと考えられていた。

これが顧客目線だと思った。

僕は「では何故、違う商品もあるんだ?」と思ったが、彼は、その回答までも話し始めた。

「この売り場も、また素晴らしい!縦と横の計算がなされている。所得の高いセレブ層が好むものから、庶民のものまで。料理が乗って初めていいと思う器と、器だけを見ていいと思うものもある。」

つまり、僕やさっきの女性客のように、「器だけを見ていい」と感じる客だっているし、それも計算のうちだったと

でも、本当にいいものは、「料理を引き立たせる皿」だということを、暗に教えて頂きながらも、気に入ったものを選んでくださいという鬼丸翁明氏の配慮。。。

それらに一瞬で気がつかされた僕は、鬼丸翁明氏に感謝の気持ちでいっぱいになった。氏は、ただ、ニコニコされていた。

皿一つでこんなに学べるとは思わなかった。

ちなみに、ラジオ会社の役員の方とは、ビジネスの話も盛り上がったので、近く再会予定。

場所は、日本橋高島屋7階の食器売り場の一角なので、少し分かりにくいですが、訪れた方はフロアの店員にお尋ねください。

窯元のサイト
http://www.020oumei.info/index.html

写真は会場にて。鬼丸翁明氏を真ん中に、鬼丸尚幸氏(左。義弟)と自分。氏がお薦めの皿の1つ。