サンタ

歌舞伎町の売り場で思った。

他の用事のついでに、オフィスの忘年会用の女性コスチューム購入の依頼を引き受けたのは、間違いだった。これで最後にしたい。

そもそも、サンタさんの背中がバックリ開いているのがいいとか、腰に大きなリボンが付いているのがいいとか、そんなトレンドがあるなんて、知らなかった。ググっても出てこない。清楚なものだと「今どきそんなの着ません」と馬鹿にされるリスクがある。逆に、大胆なものを買うと「最低です。残念です」と、威厳を損なう。

“KAWAII” が世界に広がった今、女性向けのグローバルアプリを作っている立場としては、完璧な答えを手にして、オフィスに帰る必要があった。

難しい経営判断だった。

そんなことを考えていると、ふと自分の周りが、女性ばかりだということに気がついた。

“しまった!”

歌舞伎町のクリスマス前の金曜日。ご出勤前の夜のバタフライたちが、衣装選びする時期だった。やたらと長いルーズソックスや、変な形の下着が売っている場所に、一人だけ男がいて、女性コスチュームを選んでいる。。。

慌てて箱を棚に戻して、売り場から離れて、オフィスに電話した。

“無理だ。やっぱり女性に選んでもらってくれ!”

社員からの返事は「時間がないので、ぜひ、お願いします」の一言だった。

実際、時間を浪費している暇はなかった。走るしかない。師走だ。

夜のバタフライたちをかき分け、「当店人気 No.1」を2つ手にとって、急いでレジに並んだ。蝶たちの視線が痛かった。しかも、こんなときに限って、綺麗な女性のレジに並んでしまったことも後悔した。

だけど、彼女はプロだった。表情を変えずに、バーコードを処理してくれた。僕は、「女性用の衣装を買ったのは、初めてなんだ」と伝えたかったけど、言えなかった。むしろ、言わなくて良かった。

会計を済ませた後、急いで店を出て帰社した。

とにかく、勝負に勝った。勝ち抜く力だ。

待っていた女性スタッフの1人に購入してきたものを見せた。彼女は喜んで、じっくりと箱を見た。そして、笑顔で言った。

“これ、私のイメージしたものと違います”