早朝5:30。新宿アルタ横のアニメイト前に、女子の長蛇の列ができていた。
“これはただ事ではないな”
長年の経験から、僕にはすぐに分かった。
普通なら「笑っていいとも」収録後のジャニーズメンバーの「出待ち女子」だと推理し、そっとしておくのが紳士の振る舞いだろう。
しかし、別ルートで「笑っていいともは収録終了している」という情報をつかんでいたため、事態を正確に判断できた。
女子向けサービスを提供する僕らにとって、見逃せない状況で、すかさず、列最後尾の「原宿ヘアサロン系」の二人組の女性たちに尋ねた。
“こちらは何の列ですか?”
“ストラップ”
”何のストラップですか?”
”アプリの”
やれやれだ。以前も早朝の新宿で「エグザイルのライブチケットに並ぶ女子たち」に出くわしたときに書いた通り、今の女子たちはメッセージングアプリのように「5文字以内」で会話する。
もっと長い言葉で話して欲しい。意思疎通の課題は、世代を超えた「1億総活躍社会」にも支障をきたすかもしれない。
けれど、これが現実だ。
「何の列ですか?」と尋ねて「チケット」「ライブ」「エグザイル」と3回の質疑応答で理解しないといけない。
オンラインチャットでも、「どちらにお住まいですか?」ではなく「どこすみ?」だし、「LJK」と聞いて「高校3年生の女子」を意味することが分からないようでは、「ラスト女子高校生」たちに相手にされかねない時代だ。
そこで、トレンドを把握している僕は、短めに尋ねてみた。
“何のアプリ?”
“…笑”
一瞬あれ?と思ったけれど、「6文字だった」と気づくのが遅かった。2人は笑っているだけで、何も答えてくれなくなった。
「5文字より多いの無理」と、以前、LJKに言われた言葉が重くのしかかる。
彼女たちには、5文字以内で話さないと本当に無理なのかもしれない。
しかたなく、原宿ヘアサロン系の2人に軽く礼を伝え、別のところにいた「渋谷デザイナー系」の女性にリトライしてみた。
“なんの列?”
彼女は僕の方をチラッとみて、「この人分かってる!5文字以内!」というような安堵の表情を浮かべた。そして、笑顔になり教えてくれた。
”※△□◯※の、※△□◯◯の、※△□ラバーストラップ”
最後の「ラバーストラップ」しか聞き取れなかったけれど、それでも、僕は笑顔で分かったフリをして、彼女に礼を言って立ち去った。
少し離れた場所まで移動し、屈辱感に打ちひしがれながら、
“ラバーストラップ 新宿 アニメイト”
とスマホでググった。彼女は、
“あんさんぶるスターズアプリの、UNDEADハロウィンバージョンの、ユニットラバーストラップ”
と言っていた。
明け方の空に浮かぶ三日月を眺めながら、「5文字より多いの無理」と言ったLJKの言葉は「誰にとって無理」なのか、分かった気がした。